ジョナサン・キャロル Jonathan Carroll
ありきたりの女性誌に転んでしまったと私の回りではしごく不評の「CREA」の書評欄は、一時期とても充実していた。
毎月のように紹介されている本を図書館にリクエストしたものである。
ジョナサン・キャロルの名を知ったのもこの書評欄。「まだ読んだことのない人は幸せ」という、書評にはよくあるパターンで紹介されていたが、これは真実であった。
初めて本を手に取ったのはそれより少し前のこと。「空に浮かぶ子供」なんてタイトルとあらすじから、あまりに得体の知れなさを感じすぎて、その時はさすがに買えなかった。
でもある日、勇気を出して「死者の書」を買ったのだ。タイトルから連想した「チベット死者の書」とは大違いだった。
確かに読者を選ぶところもあるが、確かなものだと思っていた甘く懐かしい世界が、ある時足元から音もなく崩れていく。あの不安な感じは誰にも真似できないだろう。本の好きな人なら必ず読むべきだ。
どうしてこんな荒唐無稽な設定や物語の中に引き込まれてしまうのだろう。文章からその秘密を探りだそうとしても、結局はまた夢中になって読んでいる自分に気づくばかりだ。
ダーク・ファンタジーやモダンホラーという言葉だけで表せる作品ではない。
ハッピーエンドなのか、サッドエンドなのか、最後の最後までわからないところも恐ろしい。
「月の骨」
「炎の眠り」
「我らが影の声」
「死者の書」一番のお薦め。
「天使の牙から」
「犬博物館の外で」
「黒いカクテル」
「沈黙のあと」
ウィーンに住むアメリカ人である作者の姿がまぶたの前に浮かんでくる。不思議な物語世界は、少しずつ共通の登場人物の存在によって重なり合っている。それを探すのも楽しい読み方だ。
空を飛ぶことができるというのは、人にとって不思議な意味のあること。
空が飛べないとお悩みの方は必読。