今 市子 IMA Ichiko
最初にこの人の名前を知ったのはSFマガジンの編集後記か何かだった気がする。SFでもないのに取り上げる人取り上げる人がみんなベタ褒め。
ある日、本屋で新刊だった「百鬼夜行抄」の二巻を見つけ、買ってみたら異様に面白かった。久しぶりのことだったからうれしかった。
このあと一巻を見つけ出すまでは地獄のようだった。文字どおり本屋を駆けずり回った記憶がある。まんがっていうのは、再販も少ないし、文字通り出会ったときが最後という感じがある。何にせよ、やはり朝日ソノラマはマイナーであるようだ。
中身について言えば、絵も美しいし、ストーリー展開もしっかりセオリーどおりでありながら新鮮という見事な腕だ。
テーマも日本の妖怪物という、一見はやりもののように見せながら、しっとり趣味の世界を描く難行に成功している。
何が優れていると理屈をこねるのもいいが、主人公律君のメンタリティ(近作ではさみしい少年時代が次第に明かされている)が非常に愛すべきものでお気に入りだ。冗談抜きで髪形さえ真似てみようかと思っている。青嵐もお母さんも好き。
ほかの人には見えないものが見えてしまうというのは、才能なのか、それとも呪いなのか。
続きが楽しみな逸品だ。
「百鬼夜行抄」1〜4 朝日ソノラマ
SFとホラーが混じる。引き出しの多い作家であることがよく分かる。ファンタジーかと思ったらSFだったというのは何より好きなパターンなの。
その他の短編もいかにもネムキらしい。
待望の最新刊。初期の作品集である。
ホラーというよりファンタジーよりの作品、そしてコメディーファンタジーと幻想的なSF。やっぱりネタが広いなあ。画力も初期から安定しているということがよく分かる。
「砂の上の楽園」のリメイク元であるという「神々の花」はしっかり別の話で、見事なもの。確かに落とし方は一緒だけど(笑)
なぜ人を好きになるのかがちょっと弱いけど、等身大の高校生の生活と思いたいものがよく出ている。やっぱり男の子の世界は甘いというよりは暴力的なのだ。
男の子が男の子を好きになることがそんなに変なことだとは思わないけど、男の子同士の関係ってもっと荒っぽいと思うから。
例に違わずボーイズラブ系出身らしく、それなりに味のある濃い話も多い。
この話は、困った大人たちの描き方(ちょっと甘いぞ、破綻してるぞ!)が面白くていい。離婚後は離れて暮らす主人公の父が連れてきた再婚相手は何と若い美青年だった! というようなお話である。
この人のイラストの表紙につられてその手の小説を買ったことがあると正直に告白しよう…