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石原 理  IHIHARA Satoru

 

 この鮮烈な暴力志向のマニアックな魅力に取り付かれたら、どうにもならないらしい。最初のころは、本当に女の人かなあ、とおもったこともあった。でも、男の人が描くより、彼女の作品世界は甘い光に満ちているようだ。

 どうやっても既成の作品世界の枠に入らないところがいい。一作一作が趣向を変えてあるところも気に入っている。 


「カリスマ」全4巻  ビブロス

 ニューヨーク。

 当初の単発読み切りから連載長編への転換に、物語の流れの中で若干齟齬を来しているような気も。つい矛盾をさがして読んでしまう。しかし力作。

 心を病んで虐待を加える、足を踏み外したエグゼクティブの父親、子供のままの兄、路上に生きる主人公。結構強烈だ。

 いくつものいさかいを経て、少年達のカリスマ、リーダーとして立つことを余儀なくされる。平凡に生きることを許されないのだ。

 日系の潜入捜査官が出てきたあたりから物語は大きく展開を始める。


「DUMPS」  ビブロス

 世界とテーマは「解体」に、登場人物は「カプセルヨードチンキ」につながるような作品。悪くない。

 不法投棄されたロボットの回収をなりわいとする少年達のぼーけん。

 増殖を抑えきれない神経系統。死にたい人造人間。

 中身は一杯詰まっているけど、結局自転車で追跡するような躍動感がいいと思う。


「カプセル・ヨードチンキ」1〜2巻  ビブロス

 これ、続きでないのかなあ……だって1って書いてあるのに(^^;;

 と書いておいたら、出た! 今日買ってきました。

 今の時代にぴったりの、疾走するサイバーパンク風知的暴力ものとでも言いましょうか。時はちょっと未来。人工子宮システムで育った最初の世代である主人公たちは法と電子の網のすき間を縫って大暴れしている。主に1巻で出てくる危ないゲームの数々も面白い。

 「国税庁賭博認可ナンバー13号! 伝説のニューエイジバトルゲーム、パニックプレイ!」「公道違法レーサー」「劇症ナルコレプシー」「この実験の結果今の10代の中には明らかに脳発達の違う子供が存在しています 最小限の脳エネルギー代謝で鋭敏な反応が可能であり」……悪くないでしょう?

 おれたちの反逆、っていう感じが好きだ。

 2巻は「カプセル・ヨードチンキX」だそうだ。


 「解体―KAITAI−」  ビブロス

 徹底的に身元を明かす手掛かりをなくした遺体がいくつも見つかる。ところが突き止められた被害者は生きていた。そんな不可解な殺人事件が頻発する。

 そんなある日、ヒト・レプリカ、マネキンの「解体」をなりわいとする主人公の元に美しい入れ墨を施されたボディーが持ち込まれる。

 この寒い季節、指の皮がぼろぼろになるとこの話を思い出す。新皮(真皮じゃないのか)からの急激な水分の蒸発を防ぐため、脱皮した人造人間が水に浸かるシーンが美しい。

 皮膚は傷つくととたんに弱くなってしまう。だから感染症も起こしやすいんだ。

 しかしなぜ舞台は未来のロンドンなのだろう。暗くて、湿っぽい。

 町を走る運河、テムズ川。ボートのある地下室。不思議な匂いがする。

 でも生きようとするのは人だけじゃない。それはちょっと怖かったりする。


「38度線」  ビブロス

 初期の作品を含む短編集。

「ノルマンディーで会いましょう」がお気に入り。ノルマンディー上陸作戦のころ、戦車隊とマキとして再会した独仏サッカーチームの話だ。


 「あふれそうなプール」1〜2巻  ビブロス

 最近作「あふれそうなプール」は珍しい日本の学園物。

 これまではそれほどストレートには出てきていなかったボーイズラブ志向がちょっと鼻について嫌。まあ、この頃のご時世じゃ仕方ないのかな?

 

 気になってるんですが、ビブロスさん、「あふれそうなプール」「38度線」以外全くカタログにのっていないのはどういうことなの?

 通販で注文しろってことなのだろうか。


「少年は明日を殺す」1 大洋図書

 極端にボーイズ系へ傾いた作品。

 それでも魅力があるのは、取っ組み合って序列を決める少年のありようが描かれているからかもしれない。真剣に生きていたいよね。

 

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