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母になるということ

 実のところ、わたしは子どもを産むどころか、結婚するとさえも思っていなかった。さみしい青春を送っていた20代前半まではまったく想像もしていなかったし、結婚ということを実際、具体的に考えてみた20代後半は、その対象となる相手がおよそ結婚しそうもないタイプばかり(おそらく、いまだに全員独身の模様)。
 当然、結婚し、子どもを産む自分の将来など、想像もできなかったのだ。

 自分自身の予想に大きく反して結婚してからしばらくの間も、子どもを持つ自分のイメージなど湧きもしなかった。たまたまオットは子ども好きで、子どもを早く持ちたいと望んでいたので、自分の考えもまた、軌道修正を余儀なくされたのだ。

 しかし、軌道修正して子どもを持とうと決めても、そんなに物事は簡単には進まなかった。

[不妊治療]

 小耳にはさんでいた情報は、子どもが欲しいと望んでいて2年間できなければ、それは「不妊」という定義に該当するというものだった。思っていたよりも身近なその状態に関する情報を仕入れれば仕入れるほど、不安が膨らんでいくという良くないパターンのアプローチを経て、子宮ガン検診を口実に、近くの産婦人科に行ったのは妊娠してもいいなと考えてから一年も経たないうちのこと。
 病院では、不妊治療を専門にしているクリニックを紹介されるが、行くのはもっと時間が経ってからでいいのではと言われる。

 若いわけでもない、いずれ離島への転勤の可能性もあるし、近くに専門施設のあるうちにとりあえず相談してみよう、と足を運んだクリニックは小綺麗で感じの良いところだった。排卵チェックだけの指導と平行して各種検査を受ける。特に二人とも異常はない。
 チャンスを増やしましょう、と軽い排卵誘発剤の投与を受ける。しばらく続けても結果が出ない。薬を変える、人工授精、更に詳しい検査、などのステップアップを提案される。
 全部やってみた。それでも結果が出ない。
 その頃には、不妊治療についての情報マニアになっていた。知らない土地、少ない友人、長い就職活動の末についた慣れない仕事……
 ある意味では、精神的に病んでいたのかもしれない。同じ歩調で歩めない夫との間のギャップが広がっていた。
 何よりも辛かったのが、夫が不妊治療を続けているということを、自分の家族に話そうとしてくれなかったこと……

 いろいろあったが、結局妊娠したのは不妊治療を始めて2年近くたった頃だった。

[妊娠]

 春のある日、いきなりつわりが始まった。月経予定日より早く、妊娠一ヶ月!時点での判明だった。

[つわり]

 ドラマみたいに、急にうっと来て流しやトイレでげーげー吐いたりするようなつわりはなかった。
 それでもつわりは恐ろしかった。妊娠が分かった週、用事があって車で外出した。ほんの数分の運転なのに、冷や汗をかくこと数度。すぐに集中がそれて、ぼーっとしてしまう。おそらくホルモンの急激な変化によるものなんじゃないかと思うけど、いつ事故ってもおかしくないと自分で思うほどの症状。一月近く、ようやく安全運転の自信が出てくるまで運転は控えた(^^;

 あとは朝起きた時の、いわゆるモーニングシックネスかなあ。
 枕元に飴や梅、ペットボトルのお茶など、口の中がすっきりするものを置いて休むようにしたら、比較的楽だった。

   


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